014:繋 がり
※013:頭脳続き。

先日出会った三成という青年のことを曹丕は
酷く気に入っていた。
元々それなりに仕事と並行して電子内に常駐はしていたが、
のめり込むという程でも無い。
今では少なくなった紙媒体の情報を取り扱う
チャットルームでの遣り取りが曹丕の性に合ったし、
比較的有意義な情報保持者が集まる稀少な部屋だった。
しかし近頃では人数も減り、いよいよ閉鎖かと思うほどであったのだが
そんな中閑散とした部屋に三成が姿を現した。
彼の探している本は本当に希少ものばかりであったし、
三成自身の蔵書や知識も興味深い、近頃はマンネリ化してきた
話題にこの部屋もこれまでかな、と思っていたら三成が
新しい話題を持ち込んできた。それが新鮮で興味深く
三成自身も飾らぬ物云いは好感が持てた。
わりと気に入っていたので親身になって会話を進めていれば
どうやら次の彼の所望の本は自分の家の蔵にあったのだ。
それで会ってもいいかな、と本当に珍しくこの青年が気に入った
曹丕は三成という新しい友人を得た。

曹丕ほどの立場になれば嫌でも身の振る舞いや
言動をある程度要求されてしまう。
それが当然であると思っていたし、曹家の遣り方に不満も無い。
しかし時折それが息苦しいと感じるのも事実であった。
己に忠実な司馬懿という補佐もいる、
その他多くの曹丕に仕えるものも居る。
友人と一応定義されている有力者の知人もいる。
しかしそれが全て造られたものであり利害関係の元に成り立っている。
普通の子供が普通に友達を作るのとは違うのだ。
だが三成は違った。
恐らく生まれて初めて家柄や身分抜きで曹丕に出来た良き理解者である。
だから曹丕はこの三成という友人をこの上なく大事にしたし、
最近ではオンだけでなくオフでも会う機会が増えた。
側近の司馬懿は嫌な顔はしつつも渋々三成と会うのを許している。
曹丕にも息抜きが必要だとわかっているからだ。
のめり込むほどでは無いものの、矢張りこの新しい友との会話は楽しかった。
あれやこれやと誘えば、三成も迷惑するだろう、だから
オフで会うのは互いの時間が合った時だけ、月2、3回程度のものだ。
しかし近頃では自室に戻れば曹丕は常にプライベートの電子サーバーに
入り、三成との逢瀬を楽しんでいる。
既に見知った顔なので文字や音声、アバターすらカットして
直接顔を出しての会話だった。
会話の内容は他愛もないもので、
書評であったり、或いは日常的な話題であったりであったが
それらの全てが曹丕には新鮮であり何処か眩しい。
ともすれば三成という輝きに引き寄せられるように
その遣り取りを愛した。

「子桓、今日は少し早いな」
「噫、仕事が予想より早く切りあがったのでな」
週末には日本に着くと云えば三成は微笑み
それは楽しみだ、と付け足した。
「先日お前が云っていた本をな見つけた」
「まさか、」
冗談だろう?と返せば三成が
本を手に取って見せる。
座っていた椅子から曹丕は身を乗り出し
「そんな、嘘だろう?」
「あれから、探し回ってな、秋田まで行ったぞ」
時間は取れるか?
と言われたので、今すぐにでも読みたいと
スケジュールを調整するために
司馬懿を呼び出した。
「またですか」と半ば呆れられるものの、
曹丕の興奮した様子に「仕方ないですね」と司馬懿は言葉を続け、
「次の日曜、3時間でしたら」と云うので
その言葉通りに三成に告げると
電子音が鳴り「了解した」と三成からの返事があった。
煩わしいと思っていた人との繋がりが今はこんなに心地良い、
その気持ち良さに曹丕は目を閉じ、
「では今日の話を聴かせてくれ、三成」
乞えば三成らしい言葉の切り方で、
三成は今日の話を切り出した。
それはまるで音楽のように曹丕の耳によく馴染んだ。

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