06:初めてだからとても楽しみ

出立ももう間近だというのに妲己が訪れて宴を
開くと通達した。
妖魔の気紛れだと鼻で哂えば良かったが
遠呂智が来るという、城内は騒然とした。
異形の妖魔共と宴などなんと悪趣味なことか、
曹丕は冷たく言い放ったがこれは強制である。
名ばかりとは云え同盟国という関係を結んでいる
手前参加しないわけにはいかなかった。
「わたしは愉しみだけどなぁ、曹丕さんの酔った姿なんて!」
くるくると妖艶に、時に少女のような表情を見せる女は
妲己だ。薄い衣を曹丕の目の前でひらひらさせながら
世に憂いひとつ無いのだという顔で哂ってみせる。
「酔うなどと、下らん」
邪推は止せと睨めば妲己は悪戯が成功した子供のように
笑みを零した。
「あなたはわたしのお気に入りなの、だから飽きるまで
絶対逃がさない」
所詮は妖魔だ。妲己の眼は獲物を捕えたように
曹丕を見つめる。
しかしその視線ですら今の曹丕にはまだ心地良かった。
( あの男の眼に比べれば )
何でも無い。
全てを見透かすように曹丕を射抜く
三成の眼に比べれば。
監視と軍師その両方を担う三成は既に
監視の任を全うしようという意思は無いらしい、
それを妲己に云ってやろうかとも思ったが
それも莫迦らしくなってやめた。
云ったところであの男は動かない。
三成はそういう男だ。
出立の準備で四六時中顔を突き合わせているのにも
いい加減飽いた。
息苦しい部屋を出れるのなら、
遠呂智でも妲己でも何でもいい。
宴の誘いは曹丕にとって三成の眼線から
逃れられる手段でもあった。
「では行こう」
流石に妖魔と云えども取って喰いはすまい。
曹丕にはまだそれだけの価値がある。
ならば異形の者共との宴も良かろうと
曹丕は妲己の後に続いた。

「宴?」
然様と頷いた男は張遼だ。
流石に歴戦の勇将だけあって言葉の
ひとつひとつには重みがあった。
その張遼が三成の元へ訪れて宴の話を振ったのだ。
「いや、聞いておらぬが・・・」
「曹丕殿は行かれたようだ、他に主だった各国の主や
将が呼ばれている」
不穏である、何か罠なのでは無いかと勘繰るが
張遼の話を聴く限りそうでは無いようだった。
「妖魔の王も随分暇らしい」
「先だっても蜀のものを集めてそのようなことをしたらしいですな」
どちらかというと妲己の仕業なのかもしれない。
そうすることで遠呂智の存在を知らしめ
尚且つ自身も監督できるからだ。
「厄介だな、」
「私も些か心配で、女狐の曹丕殿への執着が気になる」
「遠呂智は何もすまいが、あの女なら遣りかねんな」
私も呼ばれたので今から行こうと思います、と礼をする
張遼に三成は「待て」と続いた。
「俺も行く、何、俺は妲己からの監視という名目がある、
問題なかろう」
その言葉に張遼は頷き「そう云うと思っていました」と
言葉を洩らした。

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