05×今宵あなたを盗みにいきます

予告状に書かれていたのは、
『次の満月の夜、黄金の乙女を戴きに参上します 怪盗皇子』
だった。
黄金の乙女像といえば市のシンボルである。
市庁舎の前広場に置かれたそれは黄金で出来た意匠の細工の
美しい像であった。
大胆に布告されたその予告状に新聞各社はこぞって
取り上げた。
「怪盗皇子、ついに市のシンボルに布告する!」
「怪盗皇子、乙女への口付けなるか!」
「大胆不敵の予告状、狙われた黄金の乙女!」
など各社一面にその予告状を載せた。
世間は騒然とし、勿論、それは警察だけで無く、
一般市民に至るまでこの話題を知らぬものはいないというほど、
インパクトのある予告がなされた。
勿論市と警察は厳戒態勢で臨むこととなる。
その様子を一人の男が、優雅に車内から覗いていたことを
誰も知るものはいなかった。

そして来る、満月の夜だ。
煌々と輝る月の下、市庁舎の前には、警備にあたっている
警察関係者と市の職員、そして辺りに群がる多くの野次馬、
誰もが固唾を飲んで事の成り行きを、怪盗皇子を待っていた。
皆が焦れたころ、かの人は舞い降りる。

「居たぞ!怪盗皇子だ!!」
わあ、と警察が駆け寄った。
怪盗皇子はそれを物ともせず、瞬間移動のような速さで
警察によって幕が張られた乙女の在りし場所へとその身を
滑り込ませた。

幕の奥へ身を移し、
怪盗皇子は不意に気付く、
腕を掴まれている。振りほどこうにも思ったよりずっと強い
力で掴まれているらしかった。
「ついに捕まえたぞ、怪盗皇子!」
三成だ。
乙女の場所に、乙女は無く、
居たのは警察、
「成る程、あのような無粋な予告を出したのはお前達か、」
偽の予告状だったのである。
これで本物が現れてくれるかどうかは賭けであった。
だが、あれほど宣伝をすれば、当然怪盗皇子本人の耳に入るで
あろうし、今まで予告状を出して盗め無かったものは無いという
怪盗には、例え自分が出した予告状でなくとも、
現れると三成達は踏んだのだ。
そして、満月の夜願った通り、怪盗皇子自ら、
警察の手の内に降って来て呉れたのだ。
三成は予め黄金の乙女像を別の場所へ移し乙女のあった場所に幕を張り、
そっと息を潜め、怪盗皇子を捕まえる瞬間を待ちかまえていたということだ。

怪盗皇子は、ち、と舌打ちをし、
それから三成の腹を蹴り、幕を破ろうとナイフを投げた。
だが、其処で不意にぐらついた。
三成が尚も怪盗皇子の身体にすがり付いた為に、
大きく身体が揺れ、黄金の乙女像が撤去された為に空いた空洞へと二人して
落ちていったのだ。
「・・・っ!」
咄嗟に怪盗皇子がロープを投げるも届かず、
二人して、深い闇へと飲まれることとなった。

next/prev

http://zain.moo.jp/3h/