その日はたまたまそのコンビニへ立ち寄った。
全くと云っていいほど他意は無い、ただの気紛れである。
だからそのコンビニの隣のビルの前に彼の顔を見つけた
時には、本当に驚いた。

「曹子桓・・・」
期末テストも終わり、テスト休みである。
曹丕が何処にいようと三成が何処にいようと
それは互いの勝手である。
あまりの偶然に三成が暫し茫然としていると
曹丕の方が三成に気が付いた。

「石田か」
「噫、意外だな、こんな処で・・・」
その通りだった。
曹丕のような男が共の一人も付けずに
コンビニの横に立っているなど想像できない。
学校への通学は車のようだったし尚更だった。
それを察したのか曹丕が口を開く。
「少し早く降りて仕舞ったのでな、迎えの車待ちだ」
曹丕がコンビニの隣のビルを指す。
どうやらこのビルに用があったようだ。
時間より早く降りて仕舞ったのか、迎えの車
らしい影は何処にも無い。
なんとなく居心地が悪くて、三成は視線を逸らした。

「・・・!?」
三成の態度が急変したのに気付いて
曹丕は訝しげに眉を顰める。
視線の先を追えば脇の路地に人だかりがあった。
「どうした?」
三成の視線の先を見やれば、喧嘩のようだ。
数人に別れたグループ同士で怒鳴りあい、
そして鈍い音が響く、その音と同時に
相手の男の身体が飛んだ。
壁にどん、とぶつかる音がして、それを合図に
殴り合いが開始された。
「あれは・・・」
「知り合いか?」
「知り合いというほどでも無いが、豊臣傘下の
下位組織の末端のものが居る」
三成は不意に曹丕に振り向き、
止めて来る、と殴り合いをする男達へと足を向けた。

「ほう」
それを面白そうに曹丕は見止めて、口端を歪める。
「お手並み拝見と行くか、石田三成」
三成の後に続き曹丕がその喧嘩に参加したのは
30秒後のことだった。

「莫迦共が・・・!」
小気味良く、相手を殴り付けて、
ついでに説教染みたことを云う。
なんの気紛れか曹丕もこの喧嘩の仲裁に
付き合っているので、事態は混迷の極みだ。
三成自身も止めに来たのか、
果てまた、参加したのかよくわからない状況になりつつあった。
漸く三成の姿に気付いた男の一人が、
謝罪の言葉を告げ、その場は収まった。
逃げるように散り散りになる男達を見送り
漸く一息吐く、後ろを振り返れば、
曹丕は長い髪をゆっくり揺らし、煙草に火を点けていた。
三成の姿を見止めて、目を細めた後、
己の煙草を三成に差し出した。
礼を述べ、有難く受け取ることにする。
曹丕を見れば新しい煙草を出しているところだった。

「済まぬ、巻き込んだ」
曹丕はゆっくり煙を吸い込み、
吐きだしてから、否、と答えた。
「私の勝手で入った、気にするな」
こうして物を云う様は流石、曹家の跡取りである。
何とも云えない威圧感と貫録がある。
「車はまだ来ていないな、」
通りを見てもそれらしい車は見当たらない。
「バイクで良ければ送るが」
つい、云って仕舞った言葉に曹丕は一瞬目を見開き
そして、ゆったりとした動作で頷いた。
三成がコンビニ横の駐車場に止めていたバイクを
取りに行っている間に曹丕は携帯を取り出す。

「仲達か、迎えはいい」
一言そう伝えれば電話口で何事か聴こえたが
無視をして、用意が出来たらしい三成から
ヘルメットを受け取った。
三成の後ろに跨り腰を掴む。思ったより筋肉が
あるようだった。優男に見えるがそうでも無いらしい。
「本家でいいのか?」
その言葉に否、と答え、マンションの場所を指示する。
滅多に曹丕は本家には顔を出さない。
三成は軽く頷いてから、曹丕をマンションの入り口まで
送ることになった。


03:何故だか、
どうしてだか



こんな姿を仲達に見られたら卒倒されると
曹丕が笑みを浮かべたのを三成は知らない。


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