「株ねぇ・・・確かに凄いですぜ、これ」
三成とてやらなかったわけでは無いが、あくまで
片手間の話だ。
子桓のそれは確かに博打に負け無しと云うだけあって、
この二ヶ月で随分な利益をあげていた。
読みが深いのだ。
経済紙を云われるままに揃えて、
読み通したと思えばネットで情報を拾い、
今や、ちょっとしたトレーダーとして擦れ擦れの
合法ラインで儲けている。
時間をかければできないことは無いが、
成る程、これは才覚の違いか、
子桓の凄さは火を見るより明らかだった。
子桓曰く、今はタイの不動産が穴場なのだそうだった。
その上、顔を隠して、博打の代打でも活躍して
貰っている。今や子桓は『石田のシマの代打師』
としても引く手数多だった。
更に云うなら、シモの世話も万全である。
有益なことだらけでこうなると返って
子桓のバックボーンが心配になるが、三成とて
何の手も打っていないわけではなかったし、
子桓の移動には非常に神経を使って上手く隠していた。

そんな折に召集だった。
「今日は遅くなる」
子桓はその様子に納得したようにテレビに魅入っている。
いい旅☆気分の何処がそれほど気に行ったのか、
はてまた旅行に行きたいのか熱心に見ているようだった。
「夕飯は左近が作ったものが置いてあるから」
そう云えば生返事が返って来た。
左近を伴って、本家へと顔を出す。
三成は国内最大の織田組傘下の一つ、豊臣に所属する
若者頭だ。いわゆる中堅的存在であるが、
それでもこの歳では随分出世が早い方である。
幼い頃から秀吉様とおねね様に目をかけてもらった所為か、
実質三成は豊臣組の次代有力候補の一人でもあった。
その上位の存在、つまり織田総本家、会長信長直々の
召集であった。
行かないわけにはいかない。
そういった事情で、三成はいつもどおり、セキュリティと
護衛を万全に配した部屋に子桓を置いて出かけることとなった。

「中華系?」
「そうだ、大陸マフィアで中国との取引は知っているな」
秀吉に云われて、そのあたりとの人間とも会ったことはある。
だが何故この召集と関係あるのか、三成の思考を余所に秀吉は
続けた。
「主に三大勢力があるが、その中でも最大手の組、曹魏の若が行方不明らしい」
はあ、と三成は適当に相槌を打った。
別にそれが三成達と何の関係があるのか、
「信長様が曹魏と互いに密約を交わされていてな、」
「もしその若君が日本に居て、もしその身体になんぞあったら、えらいことになりよる」
「そうでしょうね」
三成は酒をちびちび含みながら返した。
「死亡説も既に出てはいるが何せ遺体がみつからん、相手が相手なだけに、
情報が錯綜しているようだが、もし、だ」
秀吉がずず、と三成に近づいた。
「もし、この日本でその御曹司が居てだな、組のもんと衝突でもしたら」
「したら?」
「ワシらの首が飛ぶ」
「そりゃ大事ですね」
適当に返せばそうだろうそうだろうと秀吉が頷いた。
「それに信長様は、その曹魏の御曹司の身を抑えて、何かの取引材料に
使う気でおられるようだ」
だからお前もシマで万一見つけることがあったら、ゆめゆめ取り逃がすことなく
丁重にこちらまでお連れしろ、と秀吉は立ち上がり、
信長に酒を注ぎに行った。
「なんか、途方も無い話ですね」
左近の言葉に三成は半ば呆れた様子で酒を呷った。
「途方も無いも何も会ったことすら無い男がわかるものか」
下らないことに時間を使ったと三成は立ち上がる。
そしてそのまま丁重に二次会は辞退して、
マンションへ戻った。

不意に気になって部屋で本を読んでいる子桓に問う。
「そういえば中国のシンジケートで曹魏というのがあるのだが」
「ほう、名は聴いたことがあるな」
思い出すように子桓が返した。
有名な組織だから別段珍しいことでも何でも無い。
「その若君とやらが行方不明らしい」
お前知らないか?と適当に口にすれば、
子桓は首を振った。
「私が知るわけなかろう?」
その時の子桓の笑みを三成は見ていなかった。


05:生死不明の
男の話


next/prev

http://zain.moo.jp/3h/