「は?え?何ですって?」
ごおおおお、と飛行機の飛び立つ音にかき消されて
聴こえなかった。
ので、もう一度大声で報告する。
「ですからバリの別荘には居られませんでしたと!え?日本?」
電話の相手は低い聲なので聞き取りにくい、
『植がな、そうでは無いかと云うのだが』
こちらはもうえらいことになっている、と電話の主、
夏侯惇が溜息まじりに呟いた。
『まさか死んでいるとは思うまいが、孫呉の動きも不穏だ、
孟徳なぞ、呉か蜀にパクられたのではないかと今にも攻めそうで
抑えるのに苦労する、植の取り巻き達では無いかと疑いも晴れておらず
内部も情報が錯綜している』
「ええ!ええ!そうでしょうとも!」
『それに日本の織田の動きも少々気になる』
「今すぐ日本へ飛びますとも!」
ごおおお、と飛行機の飛ぶ様を見つめながら司馬懿は絶叫した。
曹魏は目下組をあげて、曹丕の行方を捜索中であった。


他意は無い、
全くと云っても他意は無い。
この三ヶ月で、それなりの関係を築いてきたし、
三成は不本意ながらこの絶世の美男に相当入れ込んでいた。
故に行きたがっていた温泉もまるごと一軒押さえて連れて行ったし、
子桓があれが食べたいと云えば(左近に)用意させ、
似合う服を見つければ大量に買っては与え、
欲しいというものがあれば直ぐに用意をした。
左近にしてみても満更では無いらしい、
この付き合いになってから随分経つが、
珍しく子桓は気に入ったようだった。
甲斐甲斐しく三成同様子桓の世話をしている。
実に世話のし甲斐のある男なのだ。
不思議と三成の生活に溶け込んだ子桓は、
今も悠々と机に向かい株取り引きをゲームをするかのように
愉しみながら珈琲を啜っている。(銀座の専門店でわざわざお取り寄せた豆だ)
身体の相性も互いに抜群で毎夜毎朝実に愉しんでいるし、
お世話にもなっている。子桓自身愉しんでいる風だから満更でも
無いのだろう。三成の顔が気に入っているのかよく頬を撫ぜる仕草をする。
それにこの三ヶ月で子桓がもたらした巨額の金も魅力的であった。
だから、この行為は、滅多に掃除をしない三成が
たまたま遭った時に子桓の着ていた上品な上着の存在を
思い出し、クリーニングにでも出そうかと、ああ、そういえば
上着に何か入っていたら、困るな、と内ポケットを探り、
案の定中から出てきた千円札一枚しか入っていないエルメスの財布を見て
出遭いの思い出を少々再生して微笑を浮かべ、つい出来心で中のカードを
手に取ったことで発覚した。

「・・・曹・・・丕・・・」

正直その時の衝撃を言葉で表すことなど到底できるものでは無いが、


06:嘘だと云って
欲しかった。



そもそも、誰かの組長の愛人かなー、
そうだったらちょっと厄介だなー、
でも手放すのは勿体ないからどうにか発覚しても手元に
置けないかなーと画策していた三成だ。
しかし蓋を開ければ、
「曹魏の二代目ですかい・・・」
左近が珍しく青ざめている。
勿論三成も青ざめている。
互いに思うのは一つだ。

( 俺の首・・・飛ぶかもしれん・・・ )

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